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その人たちは何でしょう? (金木犀9)

2008年12月06日 01:45

「えー、選手の皆さんお疲れ様でした。七位と八位の方は残念ですがここで失格となります。では次の競技ですが――」
 休む間も無く杉山の説明は続く。徹、高宮、そして瓜谷はともに一次審査を通過していた。
「次は、皆さんの人気と機転を試させてもらいます」
 歓声が一際高くなる。その大半は瓜谷に向けられたものだ。

「まずは各自、バケツをお渡しします」
 そう言って壇上に運び込まれたのは、小さな子供であれば隠れられそうな業務用の水色のポリバケツだった。六つ並んだユーモラスな姿は、後ろに立つ緊張した男たちと好対照をなしている。 

「皆さんには風船を持って来てもらいましたが」
 杉山はそこで意図的に溜めを作った。

「合図があったら自分の風船と同じ色のものを会場から借りて、バケツに出来るだけ集めて来てください」
 杉山の説明に思わず徹は、手にした自分の赤い風船を見つめた。待ってくれとばかりに異議を挟んだ三年生が持つ風船は紫色で、会場から大爆笑が起こった。

「食べ物でも持ち物でも結構です。会場の皆さんは、是非出場者に協力してあげて下さい」
 杉山は、車椅子に乗ったままで出場者の方に向き直った。
「時間は三分。原則、量が多いほうが勝ちですが、集めたアイテムによっては会場の拍手でボーナス・ポイントを加えます」
 杉山は再び観客を見て、手にしたストップウオッチを振り下ろした。
「スタートです!」

 徹はどこを目指すべきか判らぬまま、取り敢えず走り始めた。
(赤? 赤だって?)
 必死に周囲を見渡していると、小柄な体を精一杯伸ばすように両手を振る桐嶋和人が目に入った。その手には赤いスポーツタオルと、何故かリボンが握られている。

 恩に着る。そう言って受け取り、再び駆け出そうとした徹を桐嶋が止めた。
「動かないでいい、こ、ここでじっとしてろ」
 桐嶋の指す方向を見ると、クラスメイト達が赤い物を手に手に携えてこちらに走ってくるところだった。バケツの中にTシャツや鉢巻、午前中の球技で使ったボールなどが次々と投げ入れられていく。
「サ、サンキュ……」
 思いがけない応援に、徹の声が震えた。

 三分は長いようで短い。クラスメイト達が差し出すものをバケツに集めるうちに、あっという間に杉山の声が響いた。
「あと三十秒! 出場者は時間までに壇上に戻って下さい」
 杉山がカウントを始める。
「十九、十八……」

 バケツを担いで徹が壇上に戻ろうとした瞬間、ひょっこり楠ノ瀬麻紀が顔を出した。あたしの貸しは高いよ――そんな台詞を嬉しそうに言いながら徹の背中を押す。
「じゃいこうか、徹ちゃん」
「へ?」
 バケツを担ぎあげたまま徹が首を向けるが、楠ノ瀬の両手は空いたままで何も持ってはいない。

「ほら急ぐ! リーたんも」
 リタも何故か手ぶらで横に立っている。と思う暇もなく楠ノ瀬はリタの手を引いて走り出す。徹は訳も分からず一緒に壇上に登ると、丁度時間であった。壇上では杉山が楠ノ瀬とリタを見て好奇心に目を輝かせていた。眼鏡の奥で思考が高速回転し始めたことが傍からも見てとれる。
 ほんの数秒もしないうちに杉山は小さく頷いて眼鏡を押し上げると、マイクを手にした。

「さぁて、これから採点ですが、一番は皆さん明らかですね」
 大歓声に徹は横を見て、唖然とした。

 白い風船を持った瓜谷悠の目の前には、満杯のポリバケツが二個置かれていた。当の本人は軽く目を瞑って片手を上げ、余裕の表情で歓声に応えている。
「瓜谷先輩、ダントツの一位です」
 拍手が鳴り響く。ファンクラブでもあるのだろうか、観客席の一角から女生徒たちのひと際高い嬌声が上がった。

「さて、他の皆さんのバケツは一つですが」
 杉山は壇上を見渡し、徹の前に車椅子でゆっくりと近づいて来る。
「藤原先輩、その人たちは何でしょう?」
 振り返ると楠ノ瀬とリタが、バケツに寄り添って並んでいた。楠ノ瀬はリタを押し出すようにその両肩に手を乗せて、悪戯猫を連想させる表情を浮かべている。一方のリタは、徹を守護するかの如く唇を結んだまま凛と立っている。

 徹は困惑したまま、杉山とリタたちとの間で視線を往復させていたが、
「藤原先輩は何色の風船でしたか?」
 当の杉山は得意の推理力で、既に仮説を立てているようだった。映画に登場する弁護士さながらの口ぶりで、更に徹に問いかける。

「色って、赤――」
 徹はそこまで言いかけて思わずリタを見る。自分の口から小さく音が漏れた。

「なるほど。それでリタがいるんですね」
 杉山が自分の思った通りだとばかりに大袈裟に相槌を打つ。事前に打ち合わせていたかのように、それを合図にリタは髪の白いリボンを外した。そのまま軽く頭を振ると、結っていた豊かな赤い髪が胸まで流れ落ちて広がっていく。

「リ―たん、凄ぉい……」
 連れてきた楠ノ瀬も後ろで目を丸くした。リタ本人は気取ったつもりなど毛頭ないのだろうが、映画のワン・シーンさながらであった。思わず観客席から溜め息が漏れ、直後、拍手がさざ波の様に広がっていく。瓜谷が口笛を吹いた。

 杉山は満足げに頷くと楠ノ瀬にマイクを差し出した。
「リタを引っ張り出すとは、さすが楠ノ瀬先輩ですね」
 感心しつつも想定内といった口振りであった、だが、楠ノ瀬は、
「違う違うって。あたしもリタちゃんと同じ。徹ちゃんに集められちゃった物の一つだよ」
 そう言って意味ありげに口を半月の形に開ける。傍らのリタが不審げに眉を顰めた。

 徹は、楠ノ瀬が一体何を言い出したのか嫌な予感を抱いたが、当の楠ノ瀬は二人の反応は無視したまま、杉山にすぼめた口を近づけた。
(あ……)

 肉感的な唇に引かれたルージュは、確かに紅色だった。

「杉山君、もっとよく見る?」
 楠ノ瀬の囁きが徹の耳にも届く。リタは不自然なほどの仏頂面になっていた。
 杉山は思い切り首を横に振ると、顔を強張らせたまま眼鏡を中指でずりあげて観客に宣言した。
「く、楠ノ瀬先輩も、藤原先輩のポイントになることを認定しました」
 再び観客席が沸いたが、今度はその殆どが男子生徒からであった。
「藤原先輩、二次審査は堂々の二位通過です」
 その言葉にへなへなと腰を下ろす徹の横で、高宮が自分のバケツを蹴り上げる大きな音が聞こえた。

 二次審査で二人失格となり、残ったのは四人。ここまでの順位で上から瓜谷悠、藤原徹、昭島洋、高宮武となった。
「最終審査では、ミスター参宮としての相応しさを自由に見せてもらいます。時間は一人一分で、何をやっても構いません。十五分後に、四位の高宮先輩からパフォーマンスをしてもらいますので、それまで休憩とします」
 杉山が説明を終えると、実行委員会の男女が舞台の模様替えを始めた。


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