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だから……れないんだ (金木犀5)

2008年11月28日 01:19

 制服のシャツが長袖に変わって間もなく、体育祭の日がきた。徹は結局何をやらされるのか分からないまま、ミスター参宮に参加することになった。姉の望も今日は見に来ることになっていた。

 校庭にはトラックに白線が引かれ、本部テントや来賓席も用意されている。徹は自分の椅子を指定された一角に運ぶと、軽く準備運動を始めた。本部テントの前では杉山想平がテキパキと指示を出している。
 少し早かったか――そう思いながらあたりを見渡すと、高宮武と荻原有為が武道場の方に向かうのが見えた。

 一見すると連の二人が仲良く歩いているだけであるが、先日の記憶が蘇ってどこか胸騒ぎがした。裏手の鬱蒼とした林が目に入る。
 徹は自分でもわからないまま、立ち上がって二人の後を追った。

   * * * * * * * *

「ほら、困ってただろう。よかったな」
 荻原有為の元に、定期入れを拾ったと高宮から電話があったのは昨夜のことだった。一番拾われたくない男からの電話に、有為は目の前が暗くなる。
 だが、直ぐに思い直す。一番拾われたくない男はあいつだ。

 有為が定期入れを無くしたのは、先週のことだった。定期券を見れば、誰のものかは分かる。それを昨日言ってきたということは当然写真を見たということであり、高宮は有為の反応を一週間見ていた、ということに他ならない。

「返したいから、明日少し早く学校に来てくれ」
 電話の高宮の声はどこか嬉しそうだった。有為は抑揚の無い声で返事をすると、電話を切る。一瞬誰かに相談しようかと迷ったが、意味ない――そう呟くと有為は結局そのまま翌朝を迎えた。

 校庭の木々はまだ色づき始めていないものの、見上げた青空の高さが既に季節が変わったことを感じさせる。清々しい朝の空気が自分たちの周りだけ澱んでいくように感じながら、有為は高宮の後についていく。

 武道場の裏で、高宮は赤い定期入れを有為に返してきた。受け取った有為がごく自然な仕草で中を開くと、写真は抜かれていた。
 高宮の面長の顔には先程から不快な笑みが貼り付いたままである。

「どうした有為。金でも盗られてたか」
 椚の木の下で有為は眉一つ動かさず黙っていた。
「それとも、もっと大事なものか。例えばこれとか」
 高宮は、一枚の写真を自分の後ろから出した。蚯蚓腫れのような拳ダコのある太い腕がのそりと出てくる様が、どこか禍々しい。

「どうした有為。大事なものじゃないのか?」
 高宮の言葉に揶揄する響きが混じる。
「だから……れないんだ」
 有為は高宮を見つめたまま小さく口だけ動かした。肩までかかる外巻きの栗色の髪が、僅かに揺れる。高宮が眉根を寄せた。

「あ?」
「だから高宮先輩は……なれないんだ」
 有為はぼそりと呟く。
「聞こえねえんだよ」
 高宮が不愉快そうに睨みつける。その瞬間、有為は感情を爆発させた。

「そんなだから高宮先輩は、ナンバーワンになれないんだ!」
 有為が全身から声を絞り出した。肩を思い切り怒らせ、両の拳を握り締める。
「そんなだから、みんながついてこないんだ。そんなだから有理ともうまくいかないんだ!」
「てっめえ!」
 高宮は写真を握りつぶすと、血走った目で有為の肩を左手で掴んだ。痣が出来そうな痛みに有為は顔を顰めながら、叫び続ける。
「そんなだから、そんなだから、藤原徹にだって勝てないん――」

 有為は最後まで言い切ることが出来なかった。
 高宮の右拳が有為の頬を打っていた。
 鈍い音とともに悲鳴を上げて有為が倒れる。叩いた高宮自身が息を呑む。
 軽く頬を叩くつもりだった――写真を持っていたため、つい感情に任せて握り締めてしまった――高宮の顔には後悔の表情がありありと浮かんでいた。

 有為は声を上げず、上半身を起こしたまま高宮をじっと睨みつけている。唇の端から血が流れてきたが、それを拭おうとしない。
「ゆ、有為」
 有為は身動ぎもしない。
「す、すま……」

 その時、男が乱入してきた。
 藤原徹だった。


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