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僕たち決めたんです (向日葵4)

2008年10月26日 23:05

「いやあ、楽しかった」

 瓜谷が両脇を見回す。並んでいた徹は杉山の車椅子を押しながら頷いた。夕日が六人の顔を正面から照らす。久我瀬公園から駅へと向かう欅の並木道、今までひとしきり遊んでの帰り道だった。自分たちの影が後方へと長く伸びている。

「でも、ちょっと焼きすぎちゃった。こんなに晴れると思わなかった」
 有理が困ったように自分の両腕を触ると、瓜谷が「俺もお肌が心配」と話を合わせる。楠ノ瀬が声を出して笑った。
「面白い男だな」
 リタが、瓜谷の引き締まって褐色に焼けた肌と、長い茶色の髪をしげしげと眺める。

 今日こうやって来たこと自体は、正解だったと思う。
 聞けば参宮学園の生徒は、こうして毎年ゴールデンウィークに出歩くのだそうだ。確かに、公園には見知った顔が何組か来ていた。
 
 結局、有理とは昼間以降、話の続きをすることはなかった。
 それでいいと思う。何かを期待した自分が愚かだった。傷が浅くて、勘違いが大きくならなくてよかった。
 
 だが、そんな風にしか思えない意気地の無い自分が心底嫌だった。横では、そんな徹の心の内など気付くことなく、有理とリタが楽しげに話を続けている。
 徹が深呼吸をして気持ちを入れ替えようとした、その時だった。

「明日からだね」
 杉山が車椅子からリタに呼びかけた。徹の機先を制した――そう表現するに相応しいタイミングであった。
 リタは杉山の言葉を予想していたらしい。何が、とも聞かずに目で同意する。

「何だ、お前ら駅まで待てないのか。若い奴はせっかちだな」
 瓜谷もからかっているようで、やはりわかっているらしい。徹は有理を盗み見ると、少し寂しげだったが、直ぐに演武前の真剣な顔つきに変わった。

「私達はナンバーワンを狙うことに決めたの。確かに競争相手は多いけど、負けない」
 有理は一呼吸おくと、言葉を続けた。
「私達が一番のライバルだと思うのは、貴方達」

 瓜谷はふてぶてしく薄ら笑いを浮かべ、その言葉を聞いている。リタは、対照的に軽く顎を引いて口を一文字に結んでいる。
「僕達決めたんです。僕達が認めるライバルたちに、正々堂々と宣戦布告しようと」
 杉山が毅然とした態度で有理の後を継いだ。ほっそりとした色白の頬を、少しだけ紅潮させている。

 瓜谷がごりっと頭を掻くと、車椅子を押している徹の横に立った。杉山と、その後ろでどう答えていいか分からず視線を左右に走らせている徹の、それぞれの肩に手を置いた。
 いや、置いただけではない。そのまま大きな手にぐいっと力を込められた。

「いいぜ。勝負したければ気合入れて来い」
 瓜谷は腕に力を込めたまま、入学式でリタに見せたあの笑顔を浮かべていた。
 徹は、とか何とか言って――と誰かが混ぜっ返すことを期待したが、誰も何も言わなかった。楠ノ瀬さえも、ま、しょうがないか、そう呟いただけだった。

 そのまま六人は、胸にそれぞれの思いを抱いたまま駅まで無言で歩いた。徹自身、数え切れないほど自問自答を繰り返したが、結局、思いを口にすることは無かった。
 ほどなく駅に着くとお互い短く挨拶をして、家の方角へと別れていく。

 きっと徹は、一番情けない顔をしていたに違いなかった。一人、二人去る中で、その場から離れられず立ちつくしている。既に歩き出していた有理が、振り返って溜息をついた。
 ――と思ったら突然駆け寄ってきて、徹の耳元に唇を寄せた。
 徹は一瞬にして固まる。

「有為なんかに負けたら、許さないからね」
 そう囁いて、有理は再び駐輪場へと走り去っていく。
 黒髪からは、やはり金木犀の匂いがした。

 傍らでリタが僅かに口を尖らせたが、徹は有理の後姿をただ眺めていた。


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