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まずは出発だ (向日葵2)

2008年10月25日 03:12

「明るい、男女交際~」
「瓜谷さん何ですか、その歌は」

 結局、五月三日は、徹の連と荻原有理の連、楠ノ瀬麻紀の連の三組で公園に出掛けることにした。
 決まってまず徹がしたことは、服を買いに行くことだった。上から下まで揃えるのは予算的に無理だったので、悩みに悩みシャツを選んだ。家に戻ると、間の悪いことに姉の望とばったり玄関で出くわした。紙袋を抱えた徹を見ると、望は意地の悪い笑いを浮かべて自分の部屋に戻っていったのだった。

 徹はそんなことを思い出しながら、瓜谷と並んで立っている有理を横目で見る。
 有理は待ち合わせの場所に、自転車で現れた。
「遅刻しそうになって焦っちゃった。髪の毛ばさばさ」
 有理は、額の汗をハンカチで軽く押さえて笑った。

「あれ、リタちゃんは?」
 徹が首を横に振ろうとしたところに丁度、濃緑色の外車が静かに止まった。ブロンド女性の運転手が外に出ると後部座席のドアを開ける。そこから赤い髪の少女が黒いロングスカートをふわりと翻して降り立った。
 歓声を上げて迎える徹たちに目で頷くと、今度は運転手に英語で言葉を掛ける。運転手の女性は、気をつけてと言ったのだろうか。一言二言リタに告げると車で去っていった。

「リタちゃん、綺麗!」
 有理が賞賛の声を上げる。リタも、セシルと呼ばれた女性ほどではないが背が高い。赤い髪が太陽の光を受けて輝き、白いシャツに映えていた。洋服が欧米人のためにあることを実感する。
 そうこうするうちに楠ノ瀬麻紀と車椅子に乗った杉山想平もやって来て、全員が揃った。

「で、これから呼ぶ時は、藤原とリタちゃんでいいかな」
 瓜谷が皆の前で早速声を掛けてくる。リタと徹が頷くと、瓜谷は徹を見て顔をしかめた。
「おい頼むぜ藤原。ここは『僕のことは徹ちゃんって呼んでくれないんですか』って返すのが基本だろ」
 瓜谷が額にかかった、男にしては長いその髪をかき上げる。年の差こそ一つだが、私服の瓜谷は遊び慣れた大学生にしか見えなかった。

 徹が口を開く前に有理が笑顔で答えた。
「いいんです。徹君は突込みよりもいじられるほうが味が出るから」
(オギワラユリ、そんなこと言うか……)
「そうそう。それに徹ちゃんを『徹ちゃん』って呼ぶのはあたしだけで十分」
(楠ノ瀬……よくわかんないよ、それ)
「なるほど」
(リタ……何にどう納得したんだよ)

「今日は、先輩方ありがとうございます」
 少女たちが徹をからかって話を続ける中、ごく自然に杉山想平が入ってきた。ようやくの助け船に、喜んで徹が応じる。
「礼を言うことじゃないって。一度杉山とも話してみたかったし」
 その言葉に瓜谷と楠ノ瀬も頷いた。

「本当ですか。でも――」
 そう言って杉山はリタを見上げた。メタルフレームの奥の瞳が好奇心に輝いている。
「リタ、君こそ今年の注目株だよ」
 杉山が車椅子から身体を起こし、眼鏡を押し上げる。リタは杉山を真直ぐ捉えながら言葉を返した。
「私のクラスでは、お前が最もナンバーワンに近いという評判だぞ」

 杉山は、途端に顔を輝かせた。
「聞いた? 有理さん、僕に声を掛けられてラッキーでしょ」
 得意げに振り返る。一見、優等生風だが仕草に愛嬌もある。有理にも大分馴染んでいる様子が窺えた。

「うん、ラッキー」
有理も楽しげに返事をすると座が湧き、瓜谷は短く口笛まで吹いた。
「よし、もう自己紹介はいいだろう」
 瓜谷が一同を見廻すと、指を南の方角に向けた。その先には爽やかな五月の空が広がっている。

「まずは出発だ」


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