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あたしは結構競争率高いと思うよ (運命の輪2)

2008年09月24日 00:26

 参宮学園の大きな特徴は、「連」の存在である。
 生徒達は、四月のうちに相手を見つけて連を組む。条件は三点。自分と違う学年から選ぶこと、相手は一人であること、そして異性を選ぶことである。即ち、連とは年齢の異なる男女のペアに他ならない。
 
(そして、全校百八十組の中で最も優れた連が毎年一組選ばれる――か)
 徹は、先ほどの説明を反芻する。ちょっと変わった学校、それが正直な感想だった。

 徹は校舎の外に出ると、校庭の右奥にある柔道場へと足を向けた。先ほどまで練習があったのか、電気がついている。徹は辺りに誰もいないことを確認すると、ダウンジャケットと靴下を脱いで中央まで歩んだ。
 
 目を軽く閉じる。
 暫く深呼吸をした後、目を瞑ったままで、徹は鳴神流の一段を舞い始めた。自分の身体が、周囲と緩やかに溶け合っていくのを実感する。校門での先ほどの不快な感触を洗い流すように、丁寧に、無心に舞い続けた。

 どれほど経ったろうか。

「いいね、それ」
 徹は突然の声に身を硬くした。目を開けると、柔道場の入口に涼しげな瞳の少女が立っていた。
 髪は肩口で切り揃えた艶やかな黒髪。白いシャツの胸元には灰色と臙脂色のストライプのリボン・タイが覗く。制服のスカートからのぞいた脚は軽く左右に開かれ、しなやかに長い。

「新入生? 感心感心。もしかして武道やってた?」
 先輩――いや同級生かも。とにかく綺麗な子だ。
「あたし、荻原有理。合気道部の今度二年生。で、武道やってたの?」
 少女は初対面の徹に屈託なく話しかけると、軽やかな足取りで近づいてくる。

「日本舞踊を少し。えっと、勝手に入ってごめん」
 徹は口ごもりながら答えた。彼女の対人距離感覚は、自分とは相当異なるようだった。一方踏み出せば黒髪に触れることができるその距離に、徹の鼓動は一気に激しくなる。
 荻原有理と名乗った少女は、軽く右手を上げた。

「別にいいって。入学前から道場を覗きにくるなんて、いい心掛け。でも先輩には『ごめん』じゃなくて、『すみません』だよね」
「いや、えっと――」
 有理は右手を軽く頬にあて、可笑しそうな表情を浮かべた。少し切れ長の大きな瞳が、聡明さを示すかのように絶え間なく動く。
「君、名前は」

「藤原徹……です」
 同学年であることは分かったが、また何か言われそうな気がしてつい丁寧語になった。
「藤原徹君か。合気道部はいつでも君を待ってるからね」
 そのまま、少しだけ顔を近づける。黒髪から微かな香りが漂う。

 勧誘用の笑みと判っていても、その破壊力は十分だった。有理はその威力を知ってか知らずか、軽く首を傾げると、駄目押しの一撃を放った。
「あと、連に誘ってくれてもいいけど、あたしは結構競争率高いと思うよ」

 呆けた表情でだらしなく立ちつくす徹の前で、有理は再び右手を上げて指だけ軽く前後に動かす。
「じゃ、またね」
 徹の反応を待つことなく、道場の入口に置いた赤いスポーツバッグを抱えると、外に出て行く。
 ふわり、黒髪がなびく残像が徹の目に焼きついた。

(年下に間違われたのか)
 とはいえ、昔から年より一つ二つ幼くみられることも多かった徹である、状況を考えると、誤解した有理を不満に思う気持ちはない。むしろ、同じクラスになる可能性を想像して知らずに頬が緩んだ。
 オギワラユリ、オギワラユリ――忘れないように、今聞いたばかりの名前を繰り返す。

 有理との出会いの前では、今日の出来事が全て彼方に霞むかのように感じられた。


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