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思えばあっというまだったなあ (月の裏 4-8)

2010年01月04日 01:29

「思えばあっというまだったなあ」
 数日後の部活の帰り道、徹は暮れかかる空を見上げながら有為と歩いていた。
 コートなしではもう肌寒い季節だったが、空気の冷たさが清冽さの証に感じられて気持ちがよかった。

「有為ちゃん、今までありがとう。助かったよ」
 自然と感謝の言葉が口を衝いて出る。あれこれ口うるさく振り回されもしたが、思い返してみれば短くも充実した日々だった。

 この日が遠からず来ることを、自分自身予感していたのであろうか。他流派を学ぶことも時には大事だ――そんな師の言葉に甘えて空手に没頭した一か月だった。
 先週からリタも日本に戻ってきており、また普段の生活が始まろうとしていた。

「お礼は言葉だけじゃなくて、プレゼントと一緒にお願いしたいんですけど、藤原先輩」
 有為の憎まれ口にも、素直に応じられた。
「そうだな、何か考えなくっちゃな」

 有為は徹の反応に拍子抜けした顔になったが、すぐに、
「当然よ。当り前じゃない」
 それだけ口にした。

 お礼なら何がいいだろうか、徹がそんなことを考えながら歩いていると、
「ま、あたしも面白かったかな」
 有為がそう呟いて大きく背伸びをした。紺色のコートの前が左右に開き、ジャケット越しに胸の線が強調される。徹は思わず視線を向けてしまい、慌てて目を逸らす。

 有為は視線に敢えて気付かぬふりをしてくれたのだろうか――もう一度気持ちよさそうに伸びをした後、
「いいこと教えようか」
 徹の方を振り向くと、突然そう切り出してきた。

「この前シュガークラフトを三人で見に行った時ね、有理は最初、すごくかわいい服を着ようとしてたんだ」
 話の展開に追いつけない徹は相変わらずの返事をしながら、当日の記憶を手繰った。
「でも確か……あの日のオギワラユリは、割と普段着みたいな――」
 失言にならないだろうかと考えながらも正直に口にすると、有為が頷いた。

「そう。でもどうしてだと思う? 実はね」
 そこで大きな瞳を細めて顔を近づけてくる。口紅なのかリップクリームなのか、艶やかな光沢を帯びた唇が動いた。
「あの朝、あんたと二人で夏休みに撮った写真を見せたら有理がむっとしちゃって」

 絶句する徹を前に、有為は何を思い出したのか、外巻きの栗色の髪を揺らしながらくすくすと笑い出す。
 有為は一しきり笑った後で、
「ってことは脈ありって感じなのかな」
 そう言って納得すると、もう一度謎かけをするように徹に話し掛けてきた。

「今度はいいことあるといいね、藤原先輩」
 さすがに徹も有為の言いたいことは判る。
 だが、何と返事をしていいかは判らない。

 言葉にならず口の中を動かしているうちに、丁度、有為の家に向かうバスが停留所にやって来た。
「じゃあね」
 有為は徹に別れを告げてバスに乗り込むと、窓越しにもう一度笑ってみせた。

 その笑顔が普段と違っているような気がして――
 どこが違うのか徹が考えているうちに――
 
 バスは走り去っていた。


 月の裏で会いましょう 4 完


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