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先輩も転校ですか? (月の裏 4-7)

2010年01月04日 01:28

「先輩も転校ですか?」
 突然の知らせは、その翌日にやって来た。

「さすがに俺たちも驚いたんだけどな」
 倉田兄が太い眉を大げさに寄せた。本人は驚いた表情を作ってみせたつもりだろうが、何というか、大きな寺の両脇に立つ石像の顔みたいだった。

 藤原徹の空手部生活は、すっかり磨き上げられた部室で唐突に終わりを告げた。

 父親の転勤に伴う倉田兄弟の転校が原因だった。こういう偶然というのは続くものである。
 男子高校生二人であれば、親元を離れてここに残ってもいいのでは――そう思いかけた徹だったが、聞くと転校先は空手の名門校であり、兄弟にとっても悪い話ではなさそうだった。

「藤原先輩、短い間でしたがありがとうございました」
 倉田弟が童顔を赤らめながら両手を差し出してくる。こいつもいい奴だなあ、そう思いながら差し出された手を握ると、
「有為ちゃんと三週間、夢のような時間を過ごすことが出来ました」
 本人は小声のつもりで、またもまる聞こえである。

 やれやれとばかりに有為の方を向くと、意外なことに少女は小さく笑っていた。
「ま、これはこれでよかあったんじゃない。あんたも部活から解放されて」

 有為の言葉に戸惑っていると、前川が落ち着いた口調で付け足した。
「これで空手部の廃部は決定だ。俺とお前の二名じゃどうしようもないしな」
 徹は思わず前川の顔をまじまじと見る。

「気にするな、俺は元々地元の道場に通ってたから、そっちで続ければいいだけだ」
 前川が細い目を一層細くして、徹の胸を拳で軽く叩いた。
 周囲が頷く様子から察するに、徹が部室に来る前に一通りの話は済んでいるらしかった。

「でも終わりになっちゃうと、ちょっと物足りないかなあ」
 そう言いながら、有為が大きく伸びをした。

 なんやかんや文句を言いながらも、初日の大掃除以降は有為が部室をこまめに整理してくれていた。
 部屋の隅にはいつのまにか小さな本棚まで備え付けられ、それならとばかり、倉田兄弟の購読している空手雑誌のバックナンバーも運び込まれたばかりだった。

「何か、話してるうちに喉乾いちゃいましたよね。ジュースでも買ってきましょうか」
 そう言いながら倉田弟が立ち上がる。横で倉田兄も頷いている。
「あ、それ賛成」
 有為が両手を叩くと、徹に顎をしゃくった。
「ほら、行くわよ」

「へっ?」
 徹の反応に、有為がうんざりした顔になる。
「気が利かないんだから。だいたい、去る倉田先輩たちに仕事させちゃ駄目じゃない」
 そう告げると、徹の返事も待たず部室を出て行ってしまった。
 慌てて徹も後を追いかける。

 予想通り、ジュースは全部徹が持った。


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