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えっ? (月の裏 4-5)

2010年01月04日 01:25

「えっ?」
 気付くと前川の踵が、予想外の角度から綺麗に徹の頭を捉えていた。ヘッドギアを通じて衝撃が脳を揺さぶる。膝が落ちかけたが構わず前に出ようとした徹の腹を、今度は中段前蹴りが襲う。
 思わず徹が膝をついた。

 そこで倉田兄が終わりを告げる太鼓を叩いた。

   * * * * * * * *
 
 徹と有為が空手部に入って三週間。真面目に練習に通い続ける徹に、一度組み手でもやってみたらどうかと有為が提案したのが、そもそもの切っ掛けだった。

 慌てて首を横に振った徹に対し、意外に真剣な顔で倉田兄は考え始め、
「確かに早すぎる。だが武道の体捌きが完全にできていることも事実だ」
 などと暫く唸った後、結局軽いスパーとなったのである。

「ま、早いうちに一度慣れておくのもいいだろう」
 そう言って胸を貸してくれた前川だったが、果たして結果は散々だった。

「しょうがないっすよ。藤原先輩は初心者だし、前川先輩の蹴りは癖があって、高宮先輩でさえ何度ももらってましたから」
 倉田弟がフォローする。
「まあ、俺の方はお前の動きを体育祭でも見てたしな」
 首の汗をタオルでぬぐいながら、前川もそう口にする。

 だがそれにしても、徹はこれほどまでに撃ち込まれるとは思っていなかった。自らの小さな自惚れを反省するとともに、空手の凄みというものを心底実感する。

「あーあ、カッコ悪い。やっつけられて、しかも周りに気まで遣ってもらっちゃって」
 有為は聞こえよがしな声を上げた後、
「しょうがない。ほら、行くわよ」
 道場の隅で胡坐をかいていた徹に近づくと顎をしゃくった。

「へっ?」
「保健室」
 犬にでも話しかける口調だった。さすがに徹は苦笑いしながらも、
「大丈夫だよ、前川先輩も手加減してくれてたし」
 そう答えた。

「あ、何だったら俺が付き添いますから」
 倉田弟も腰を浮かしかけたが、有為の目に浮かんだ凶暴な光に一瞬にして沈黙した。
 前川が興味深そうに、その尖った顎に手をやりながら目を細める。

「ほら、行くわよ」
 面倒くさそうな口ぶりで乱暴に突き出された白い手を、徹は無意識につかんで立ち上がった。
 
 有為の手はリタよりも小さく、そして柔らかかった。


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