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春の記憶 如月の夢 /如月の夢(後編)

2009年11月22日 22:10

「リタって凄いよな」

 手にした飲み物がやがて空になっても、何故か僕らは去りがたく、ブランコに座ったままで次第に長くなる影をただ見ていた。
 さっきの会話がきっかけで心が緩んだのだろうか。僕はいつしか、胸にしまっていた思いを吐露していた。

「家族と離れて日本にやってきて、ナンバーワンの連になる目標を叶えて。宝玉の中に何かがいると判っても、逃げなくて」
 僕は立ち上がった。一方のリタは、瞳の中に穏やかな色を湛えたままブランコに座っている。

「一年間過ごして判ったのは、リタが本当に凄いってことだった。何て言ったらいいんだろう。圧倒されるっていうか、近寄りがたいっていうか」
 下らぬ愚痴の類いだと判っていた。だが、一度話し出すと止まらなくなくなっていた。

「徹らしくない台詞だな」
 赤い髪の少女は薄く微笑んだ。ココアの空き缶を地面に置くと、座ったままで僕の顔を見上げる。
「私がそれほどの人間なのかは判らない。だが、お前の凄みだったらよく判っているつもりだがな」

 リタの言葉も、今の自分には買いかぶりが過ぎるようで重荷だった。
「今、ここで話している僕らの姿と一緒だよ。ちょっとの距離なのかもしれない。でも、この距離が詰められないんだ」

「ほんの二、三歩の距離なのにか」
 力のない僕の声に対し、リタの問い掛けには可笑しみさえ漂う。
「徹らしくない台詞だ。いや、これこそ徹らしいと言うべきなのか」
 そこで不意に北風が再び吹きつけた。僕は首を竦めるとマフラーを巻き直す。

 さっきまで声を立てて笑っていたはずなのに、いつのまにこんな後ろ向きになってしまったんだろう。ぶり返してきた寒さと自己嫌悪とがないまぜになって、僕は溜息をついた。

「ごめん。気分が悪くなったろう」
 目の前の赤い髪の少女は首を横に振った。
「では徹、一つ質問をしていいか」

 唐突な台詞だった。よく判らないまま曖昧に頷くとリタは続けた。
「連とは何だ。恋人か、それとも友人か」 
 リタは座ったままで背筋を伸ばし、僕を見上げていた。
 がちゃりとブランコの鎖が音を立てた。

 リタらしい、真っ向から切り込んでくる問いであった。
 確かに、連をきっかけに付き合い始める者もいる。けれども連の説明が恋人というのは明らかに違う。
 かといって友人かと問われれば、これも違和感が残る。

 杉山は有理の何なのだろう。瓜谷は楠ノ瀬の何なのだろう。
 そして、僕はリタの何なのだろう。
 僕はリタの問いを反芻していた。

「私の意見を言おう」
 おもむろにリタが口を開いた。
「連とは、相手の影だ」

(影――)
 声に出さないまま唇が動いた。それを見てリタが頷く。

「そう、影だ。徹、お前は私との距離が詰められないと言うが」
 そこで言葉を区切ると、少女は意味ありげに視線を落とした。
「お前の影は、既に私と一つに重なっているぞ」

 思わず自分の足元を見ると、夕陽に照らされた自分の影が前方に伸びていた。
 その瞬間、鳥肌が立つ。
 リタの言うとおりだった。僕らの影は重なっていた。

「確かに我々の身体は分かれている。だが、連でいる間は影は一つだ」
「……影は一つ」
 ただ繰り返すことしか出来なかった。

 心は一つ。僕だったらそう表現しただろう。
 だがリタの言葉は僕よりも強く深く、そしてその凛とした表情にもかかわらず、あまりに艶めかしかった。
「我々の影は一つだ。徹、忘れないでくれ」

 その声を耳にすると同時に、再び何かが背骨に沿って駆け上がってきた。
 感動と呼ぶにはもっと衝動的で、戦慄と呼ぶにはもっと官能的な何かだった。

 僕はそれを表現する言葉を一つしか持っていない。
 それは射精の感覚だった。
(我々の影は一つだ。徹、忘れないでくれ)


 そして――僕は目を開けた。


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