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お前みたいな女は嫌いじゃないぜ (月の裏 3-2)

2009年07月17日 00:18

 二人は、学園内外の生徒たちで賑わう校内を一巡りした。

 よそよそしくも無いが、かといって親しげでも無い。自然体で並んで歩くだけの二人だったが、行く先々で周囲の視線が纏わりつく。
 注目を浴びるのには馴れた二人だったが、お互い普段と違う種類のものが混じることに気付いていた。

「なるほど、お前はいつも、こういう視線を浴びているのか」
 赤い髪の少女の言葉に、茶髪を刈り込んだ男も答える。
「俺も、同じことを言おうと思ってたぜ」

 高宮はあちこちにある屋台や模擬店で食べ物を要求しては、そのままリタに押し付けてきた。
「おい、食券は払わなくていいのか」
「あ?」
 リタの指摘に面倒くさげに高宮が振り向くと、売り子の一年生に視線だけ向ける。腕の太さが高宮の半分しかない少年は、逃げ腰で首だけを横に振った。

「ほらな、いいってさ」
 そう言って、今度はたこ焼きを紙箱に詰めさせている。
 対価を払うなどという概念は、頭から抜け落ちているらしかった。

「高宮、お前は食べないのか」
 リタは質問を変えた。
「減量中なんだよ。来月体重別の試合だ」
 高宮は、拳ダコのある手を自分の胸の前で組み合わせて、ぼきりと指の節を鳴らした。
「食っていいのは、鳥のササミかツナ缶だけだ」

 もちろんノンオイルだぜ――付け足す口振りは、まんざらでもなさそうだった。話は終わりだとばかりに、また高宮は歩き出す。
 リタも後を黙って追った。

 校舎内には文化部の各種展示に混じって、教室を改装したゲームコーナーやお化け屋敷といったアトラクションも並んでいた。二人の姿を見ると歓声を上げて呼び込もうとする同級生達もいたが、二人は特段足を止めずにただ歩く。
 途中で楠ノ瀬とも出会ったが、驚いた素振りも見せず手を振って来るだけだった。
 リタと高宮は一通り校内を回った後、東校舎の廊下に並べられた椅子に腰を下ろした。

   * * * * * * * *

 体重が自分の倍ほどもありそうな男は、横に座って紙パックのウーロン茶を飲んでいる。汗ばんだ太い首の根元が規則正しく上下するのをリタが眺めていると、高宮は不意に話を始めた。

「俺は、お前みたいな女は嫌いじゃないぜ。折れそうで、とことん世間に突っ張って、しかもぽきりと折れることが判っても、それを止めない」
「有理と違うタイプだと思うがな」
 冷静なリタの言葉に、高宮は鼻に皺を寄せた。

「俺はな、そういう女を見ると自分の手で折ってやりたくなるんだよ。女だってそこら辺のくだらねえ奴らに引っかかるよりは、よっぽどいいだろ」
 思わせ振りに、べろりと唇を舐める。

 こんな会話をするときでも、高宮は声を潜めない。目の前の廊下はひっきりなしに人が通り過ぎていく。
 だが不思議と自分たちの周囲だけは、関わり合いを避けるかのようにぽっかりと空いていた。

「高宮、お前不器用な男だな」
 心からの感想であった。それを聞いた茶髪の男は、気を悪くするでもなく歯を剥き出す。

「どこがだよ。空手は黒帯で、喧嘩なら学園の誰よりも強い。うちの主将よりもだ。女はほっといても寄って来る。正直、ここで俺と同じレベルで会話できるのは、瓜谷先輩だけだぜ」

 一呼吸置いて、男は続けた。
「リタ、来年は俺のところに来い。可愛がってやる」
 そこに傲慢な響きはあったが、不思議と卑しさは感じられなかった。

(なるほど、確かにこの男も――)
 リタは一人、小さく頷く。

「高宮、お前の存在も興味深い。だが、来年はもう――」
 男は大きな手をリタの顔の前に広げると、最後まで言わせなかった。
「判ってるよ」
 面倒くさげに首をごきりと鳴らすと、ふと思い出したのか高宮は話題を変えた。

「ところで昨日のあれ、誰が考えたんだ」
「あれ、とは何だ」
「前夜祭でお前らがやった、型だよ」
 挑むような目付きで訊ねてくる。奇妙な表現にリタは一瞬眉を顰めたが、
「振付を考えたのは、徹だ」
 そう口にした。

「……なるほどな、藤原の馬鹿か。やっぱり思った通りだぜ」
 凶悪に口を歪める男を前に、可笑しみが湧き上がってきた。

「おい。リタ、何だよその眼は」
「馬鹿という言葉は、日本では一種の友情の表現か?」
「あぁ?」
 高宮が訝しげに眉根を寄せる。

「徹もお前のことを、よく馬鹿と言っている」
 皮肉ではなく、ただ思ったことを口にした。
「……あの野郎」
 それを聞くや否や、頭一つ高い高宮のこめかみに血管が浮かび上がった。その鼻先をぐっとリタに近づけてくる。

「あの糞馬鹿野郎に伝えろ。お前なんか眼中にないとな」
 空になったウーロン茶の紙パックを、ぐしゃりと大きな手で握りつぶす。そのまま椅子から立ちあがると、いつか叩きのめしてやる――そう捨て台詞を吐いて肩を怒らせ去って行く。
 廊下の中央を大股で歩く高宮を避けて、人の流れが両脇に割れた。

 そして、高宮が舞台の袖へと去った。そう表現するのが相応しい絶妙のタイミングで、次の登場人物が反対側から走ってきた。

(噂をすれば影か。何と今日は目まぐるしいことか)

 今度は、藤原徹であった。


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