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髪は炎の色にして 最終話 Someday, Somewhere

2009年05月04日 20:42

 結局、僕は高校を卒業する前に彼女と別れた。

 宝玉は確かに夢を叶えてくれたが、持続させるのは本人次第だという当たり前のことに気付いただけだった。思えば、僕らは幼かった。
 最近ようやく彼女とのことを思い返すことが無くなったが、これが時が流れるということなのだろう。

 聞けば去年、参宮学園でも生徒に宝玉を管理させる制度を無くしたらしい。
 時代にあった制度に変えていくのが正しいやり方のはずだ――教師として学園に戻ってきた瓜谷先輩が提案して、理事会も承認したという。見事なまでに先輩らしいやり方だった。

 僕は今、高校時代を過ごした地を離れて暮らしているが、まめに桐嶋がみんなや学園の近況を教えてくれる。そのお陰で西川先生が退職した際は、自分も寄せ書きに一言添えることが出来た。本当に気の回る奴だ。

 だが、彼女が出来たという話だけは本人からの報告がなかったので、いきなり結婚の話を聞いた時は驚いた。しかも相手はあの楠ノ瀬だというのだから、人生は不思議な縁だ。
 既に二人から披露宴の招待状が届いている。きっと多くの懐かしい顔に会うのだろう。

  * * * * * * * *

「徹、出かける時間だぞ」

 自分を呼ぶ声に、僕は我に返った。
 また、さっきと同じことを考えていたらしい。宇田川先生が、どうも春はいけない――そう言った気持ちが良く判る。苦笑しながら僕は立ち上がった。

「ごめん、今行くよ」
 返事と共に車のキーと財布を掴むと、厚手のジャケットを引っ掛ける。
 ここは日本と違ってこの季節はまだ寒い。振り向くと彼女は既に、その髪の毛と同じ鮮やかな色のマフラーを首に巻いて立っていた。

 差し出された手を、僕は僅かばかりの感慨と共に握り返す。指先を通して穏やかな、だが満ち足りた幸福感が身体を満たしていく。

 自分がこの場所に辿り着くことなど、あの頃は思いもしなかった。
 だがこれも時が流れた証拠であるならば、年を取るのも悪くない。
 

 今年はもう、参宮学園の桜は咲いたろうか。


 髪は炎の色にして 完


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