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見つけた  (桜7)

2008年10月08日 23:34

 入学式から三日が過ぎた。
 そのとき徹は、一時間目の教科書を出していたところだった。
 
 入学式の日以来、特に高宮武に絡まれることなく、とはいえ一言も口をきくことなく過ごしている。
 高宮は決して楠ノ瀬が言うほど「馬鹿」ではなく、徹を体育館裏に呼び出すことも無ければ、椅子がへし折られるとことも無かった。
 
 高宮には、今日も女生徒が連の申し込みに来ている。一八五センチを超える長身に、それなりのルックスであることを考えると、新入生の行動はむしろ当然ともいえた。
(これであの殺気がなければな……)
 日に何度となく強烈な視線が高宮から向けられることは、相変わらずであった。もちろん、その理由は分かっている。

 何とかしろよ、オギワラユリ。

 その本人は、徹の悩みなど気にする風もない。というより、部活と新入生の熱烈なアタックに時間を割かれているようだ。徹が合気道部への入部を辞退して以来、大した会話も無く過ぎている。
 徹が軽く溜息を付いたとき、教室の前の扉が勢いよく開いた。

 振り向くと、背の高い一人の少女が立っていた。
 
 燃えるような赤い髪が、見る者の目を刺す。廊下の外から、外の空気が流れ込んでくる。徹の頬を撫でていく風はどこか懐かしく、それでいて不安にさせる匂いがした。
 
「見つけた」
 赤い髪の少女はぼそりと呟くと、教室の中に入ってきた。
 入学式の遣り取りを覚えていた者は互いに囁き合い、少女が誰の前に立つか固唾を呑む。
 
 徹は、歩いてくる少女と高宮とを交互に見比べた。
(彼女も高宮のところに来たか――)
 驚きはない。が、徹本人ですら気付かぬ僅かな失望が、心に影を差す。一方の少女は唇を一文字に結んだまま、大またで足を進めた。群集を掻き分けるかのように周囲には目もくれない。

 少女は高宮の席を通り越した。
 周囲の囁きがざわめきに変わった。高宮の顔が一瞬引き攣り、直ぐに視線をあらぬ方向へと逸らした。
 なおも少女は歩みを止めない。
 誰が目当てなのか。
 少女の歩みと共に対象者が狭まり、それに比例するかのように教室の緊張感が高まっていく。

 そして――

 少女は徹の席の前に立っていた。
「見つけた」
 今度は、はっきりと勝ち誇ったように少女は喋った。

「私はリタ=グレンゴールド。お前の名前を教えてほしい」
 クラスのざわめきが一段と大きくなる。
 徹は余りに予想外の展開に、ただ口を開けていた。

 空耳ではないか――
 目の前の光景が信じられないでいる徹に、少女は苛立つでもなく同じ言葉を繰り返した。

「もう一度言う。お前の名前を教えて欲しい」
 間違いはなかった。
 少女のターコイズ・ブルーの瞳は、確かに徹を捉えている。徹はごくりと唾を飲み込んだ。
「ふ、藤原徹……」
 気圧されたように自分の名を口にすると、リタは満足げに頷いた。

「フジワラトオルか。お前を探していた」


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