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いいよ、先輩と一緒なら (続・月の裏3)

2009年04月08日 00:07

 それから間もなく、瓜谷の行きつけだという小さな喫茶店で七人は一休みすることにした。

 土曜の夕方だというのに店の奥半分が事実上の貸切り状態である。磨き込まれた大きな木のテーブルに陣取り、名物だという濃厚なチーズケーキを口にしながら、スポーツの話題から教師の論評まで話はとめどもなく続いていく。

「で、今年は誰がナンバーワンの連になると思う?」
 瓜谷がコーラを片手に皆の顔を見渡した。

 連が「崩れた」有為がいるのに、ちょっと無神経じゃあ――
 徹は横目で栗色の少女を盗み見るが、当の有為は気にも留めていないようである。むしろ二か月も前のことに拘る自分の態度こそが問題なのだろうか、一人徹は軽い自己嫌悪に陥る。

「自信があるやつは手を挙げろ」
 瓜谷は、徹の心の動きなど無頓着に大声を張り上げると、自ら勢いよく腕を突き上げる。
 見渡すと、他に手を挙げたのは杉山だけだった。

「今年の二年生は自信が無いやつばっかりだな」
 瓜谷が呆れ顔で徹と有理の顔を順に覗き込んだ後、
「それにしても体育祭ではさみしかったぜ。俺じゃなくて藤原の側について」
 楠ノ瀬に向かって大袈裟に口を尖らせてみせた。だが、

「有為ちゃん、男の嘘を見抜ける女にならなきゃね」
 楠ノ瀬はあっさり、そうういなす。テーブルの反対側で栗色の髪の少女も澄まして首を縦に振った。

「うーん、麻紀ちゃんってあたしよりお姉さんだなあ」
 有理が感想を漏らす脇で、瓜谷はといえば懲りずに桐嶋に対し
「お前も、女の嘘を黙って包み込んでやれる男になれよ」
 などと話しかけては桐嶋を困惑させている。

 徹がどう助け船を出そうか考えているうちにウェートレスがテーブルの上を片づけに来て、全員での話題から隣同志の雑談へと変わった。
 そのタイミングを見計らったかのように杉山が耳元で話しかけてきた。

「先輩、どうして瓜谷先輩が楠ノ瀬先輩を選んだか、知ってますか」

 確かに二人はいい組み合わせだが、そんなことは今まで考えたことがなかった。
 徹が眼で頷くと、車椅子の少年は声を潜めて続けた。
「じゃあ、楠ノ瀬先輩が自己紹介に何て書いたかは知ってますか」

 果たして、自己紹介の中に瓜谷の関心を引く言葉でもあったのだろうか。
 考え込む徹の姿を見て、杉山は合点がいったとばかりに頷いていたが、おもむろに、
「身も心も捧げます。って書いてありました」
 そう口にした。

(何勘違いしたのか、やれると思ってやたら男の子が来るんで参っちゃって――)

 徹は、不意に楠ノ瀬の四月の言葉を思い出した。
 成程、それが理由だったのか――新入生たちの行動に今となって得心する。
 だが半面、瓜谷自身はそんな言葉に勘違いするはずがないのに何故――ごく当然の疑問も湧き上がってくる。

 徹は、表情だけで杉山に話の先を促す。

「……で、楠ノ瀬先輩が瓜谷先輩に申し込んだときですけど」
 少年は眼鏡越しに素早く左右を見渡すと、一段と声を顰めた。

 同時に店内に流れていたクリスマス・ソングも消え、続く言葉だけが木霊した――そう感じたのは、徹が後から振り返っての記憶なのだろうか。
 一拍遅れて、車椅子の少年の囁きが徹の耳朶を打つ。

「瓜谷先輩は楠ノ瀬先輩に向かって、一緒に死ねるか尋ねたそうですよ」

(死――)
 その単語の重みが、徹の動きを完全に止めさせた。

 一緒に死ねるか、だと?
 徹はその言葉を反芻することしかできない。だが、車椅子の後輩の説明は続く。

 楠ノ瀬麻紀が瓜谷にその理由を問うと、
 ま、念の為にな――笑顔のままでそう答えたらしい。

 正直、徹に言わせれば瓜谷の台詞は滅茶苦茶である。だが、
「いいよ、先輩と一緒なら」
 少女は何の説明も求めず、即答したという。
 その話を聞いて徹は絶句しながら、楠ノ瀬の横顔を盗み見た。

 なんと能天気なと舌打ちしたくなる反面、どこか楠ノ瀬らしいと思ってしまう自分がいるのにも気付く。
 当の本人はといえば、瓜谷が自分の小学校時代のエピソードについて熱弁を振るうのを、涙を流すほど笑いながら聞いている。

 ちょっと自分でも過敏すぎる反応だっただろうか。まさか瓜谷の言葉も文字通りの意味ではあるい。
 徹は小さく息を吐くと話題を切り替えることにした。
「杉山はナンバーワンになったらどうするんだ?」

 明るい夢の話でも訊くつもりだった。
 だが、車椅子の少年は眼鏡の弦を指で押し上げながらさらりと答えた。
「リタと一緒ですっていったら、どうします」

 危うく手にしたコーヒーカップを落としかける。
 絶句している徹の余りに直截的な反応に、杉山はどこか憐みの表情すら浮かべていた。
「冗談です。それよりリタは何のために学園に来たんですか?」

 その質問にも答えられなかった。

 そんな徹を車椅子の少年はじっと見詰めていたが、やがて酷く真面目な口調になった。
「藤原先輩、ナンバーワンになったら気をつけて下さいね」
 改めて、自分だけがルールを知らぬゲームに参加している不安感に苛まれる。

「リタは……リタは何をしたいんだ?」
 徹の言葉に杉山は黙って首を振るだけだった。


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