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来週の予定はキャンセルだ (続・月の裏1)

2009年04月04日 01:07

 十二月の第二週、参宮学園高校の校内。
 藤原徹は放課後、栗色の髪の一年生の少女の前に先程から直立不動で立たされていた。

「で、まさか、二回も借りを返してもらおうなんて思ってないですよね、藤原先輩」
 制服のブレザーに身を包んだ荻原有為が徹の顔を覗き込む。栗色の外巻きの髪が目の前で左右に揺れ、微かに甘い匂いが徹の鼻孔をくすぐる。

 本来であれば胸をときめかせてもいい状況のはずだが、少女の顔に浮かぶ不機嫌そうな表情を前にして、そんな感慨に浸る余裕はなかった。

「……有為ちゃん。こういう時だけ後輩らしい喋り方は止めて欲しいんだけど。あと、正直何言ってるかわからなくて――」

 相手の顔を見ながら恐る恐る切り出した徹の言葉に、有為の大きな瞳がすっと細まる。
 女の子の睫毛ってどうしてこんなに長いのだろう。そんな感想を抱いたのはほんの一瞬で、その睫毛の奥に燃えているのは自分の勘違いでなければどうやら怒りの炎のようで――

 ええと、ちょっと待った、冷静に考えろ。
 
 徹は、ぼさぼさの髪の毛を指先で無意識に弄りながら必死に考える。

 今は来週末の自分の誕生日の予定を聞かれているわけで、借りと言ったら借金の心当たりが無い以上、他の貸し借りを考えるべきで――

 わざわざ人気の無い実験教室まで呼び出されて、いつの間にか説教モードに入られている。徹は小さく溜息をつくと、怒りにまかせて再び何かを口にしようとした少女の唇の前へと指を伸ばした。

「な、何を一体――」
「有為ちゃん。そんなに騒ぐと、せっかく人目を避けたのに誰か来ちゃうって」
 よかれと思って口にした台詞だったが、それを聞いた栗色の髪の少女の声が裏返った。

「だ、誰が人目を避けてるですって」
 有為の声は更にボリュームを増している。逆効果だったかと徹が肩を落としかけたところで――

「それならよかった。隠れるのは性に合わないからな」

 突然の声に二人が振り返ると、いつからいたというのか、実験教室の戸口に赤い髪の少女が立っていた。背筋を伸ばし凛とした姿は、既にその年にして威厳に似たものすら感じさせる。

「リタ!」
 図らずも徹と有為の声が揃う。二人の声には共に動揺の響きがあったが、有為の声の中には一滴の忌々しさも混じっている。

 リタは、殊更にゆっくりとした調子で二人の元に近づいてきた。

「徹の教室に寄ったら、こっちの方角へ行ったと言うので来てみたんだが」
 豊かな赤い髪が腕組みをした胸元までかかっており、そこから覗く陶器のように白い首筋がどこか艶めかしい。その一方で表情は相変わらずのポーカーフェイスで、この状況を不愉快に感じているのか楽しんでいるのか、何とも見極めづらかった。

「徹、来週の予定はキャンセルだ。有為と出掛けてもらって構わない」
 単に事実だけを告げる口調だった。

 思いもよらぬリタの台詞に、
「へっ?」「はい?」 
 再び徹と栗色の髪の少女は声を揃えてしまう。

「どうして急に」「か、勘違いしないでよ、あたしは」
 相手に構わず話し続ける徹と有為を前に、リタは微かに――片眉をほんの数ミリだけ上げて――苦笑した。

「すまない、少し早くイギリスに帰省したくなったからな」
 その時、少女のターコイズ・ブルーの瞳には何が映っていたのだろうか。
 だが徹は深く考えることなく、リタの台詞に無造作に頷いた。

「だから、勘違いしないでって言ってるじゃない」
 尚も食い下がる有為の言葉に今度は口の端を僅かに上げて微笑むと、赤い髪の少女は用が済んだとばかりに背中を向ける。

「徹、また電話する」
 ハスキーな声とともに、ふわり、二人の目に豊かな赤い髪の毛が靡く残像が焼きついた。


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