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自己紹介に何書いたんだ? (桜6)

2008年10月07日 01:36

 有理に負けず劣らずの美少女が、歩いてくるところだった。
 有理と同じくらいの背格好で、栗色の外巻きの髪。同じ制服を着ているのに、周囲と明らかに異なる華やかさを身に纏っている。有理は、妹の有為だといって三人に引き合わせた。

 手足が細いな。それが徹の第一印象だった。
 
 ユイと呼ばれた少女は、徹たちを露骨に品定めする視線を向けると、
「有理、あたし負けないから」
 そう言って姉の前で胸を張った。

「もう、組む相手は決まったの?」
 何気ない有理の言葉にも、有為は過敏に反応する。
「熟慮中。有理こそ変な相手と組んでがっかりさせないでね」

 変な相手。
 その言葉の中に自分が含まれていると感じるのは、気のせいだろうか。徹は自分の卑屈な想像を振り払って、話しかけた。
「やっぱり姉妹で似てるね。有為ちゃんの方がちょっと背が高いかな?」
 場の雰囲気を和らげたい。それだけだった。
 が、馴れ馴れしい――そう言わんばかりに有為が眉を顰めた。徹が思わず目を伏せると、

「惜っしいなぁ」
 楠ノ瀬が皮肉っぽく声を掛けた。
「素材は負けてないんだけどね。いや、お姉ちゃん以上かな。でも未熟」
 有為はあからさまに不機嫌な顔になる。その表情もかわいいと思ってしまう自分が情けない。
 
 有理が妹の態度をたしなめようと、口を開きかけたところで、
「とにかく勝負だからね」
 そう有理に言い捨てて、有為は友人の輪に戻っていった。

「あらら、怒っちゃったかな」
「でも、確かに可愛い」
「御免ね。ほんとあの子未熟で」
「……ちょ、ちょっと怖かった」

 徹たちが各人各様の感想を漏らしたところで、楠ノ瀬が話題を変えた。
「それにしても、有理ちゃんみたいに相手が押しかけて来るのも大変だよね」
 大げさに天井を見上げて言葉を続ける。
「あたしの所にも、やたら男の子が来るんで参っちゃって」

「……楠ノ瀬、自己紹介に何書いたんだ?」

  * * * * * * * *


「リタ様、探していた者は見つかりましたか」

 その夜、学園から離れた洋館の一室で、赤い髪の少女はそう問いかけられていた。月には薄く霞がかかり、淡い光が高窓から室内に差し込んでいる。

「知っているか、セシル。こういう夜を朧月夜というそうだ」
 少女は問いに答えることなく、傍らに佇むブロンドの女を見上げて語りかける。
「この国の言葉は、風情があるな」
 セシルと呼ばれた女は黙って頷く。
 
 大ぶりのソファーと年代物の家具が置かれた広い応接間に、リタとセシルの二人きりである。二人の年齢差は七、八歳あるだろうか。セシルの理知的な表情は如何にも有能な秘書然としており、若き主人が語るのを静かに待っている。
 果たして、少女はおもむろに言葉を継いだ。
 「見つかった。いや、正確に言うと目星はつけた」

「では――」
「名前はわからない。だが近いうちに会えるだろう」
 リタ=グレンゴールドはそれきり会話に興味を失ったように、卓上のカードに手を伸ばす。ほっそりとした指でカードをひとしきり弄ぶと、黒革のソファーに深々と背中を沈めて目を閉じた。

 如月の宝玉か。
 一年を賭けるに値するものであればよいが。

 気付くとリタの前には、紅茶が湯気を立てていた。既にセシルの気配はない。さり気ない気配りに感謝しながら、リタはカップを手にした。
 窓から覗く月は静謐さを湛え、リタを蒼く照らしていた。


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