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第三話 今年は負けられない (月の裏で会いましょう3)

2009年03月02日 20:21

 その頃、高宮武は一人、部室で菓子パンを食べていた。
 身体に纏わりつく湿った空気が、梅雨の訪れが近いことを告げている。高宮はシャツのボタンをもう一つ外すと、太い首の付け根の辺りを掻いた。

 昨年も、自分ではナンバーワンの連になる自信はあった。
 確かに瓜谷悠と荻原有理が組んだ連は最強だったが、もし三位まで公表されていれば、自分と金田実優も入っていたと確信している。

 今年は負けられない。
 誰が相手であろうともだ。

 有理の妹の有為が自分を誘って来たときは驚いた。だが栗色の髪の少女の言葉は明快だった。
「有理には負けたくないの。そして同級生の誰にも」
 自分と似ている、と思う。
 ぶつかるかも知れない、そうも思った。

 有為の実力は紛れも無い。
 有理と付き合う前から、その妹の噂は聞いていた。曰く、姉に勝るとも劣らぬ美貌と成績。いや、中性的な魅力の強い姉よりも上だという者もいた。
 確かに噂に間違いは無かった。この連は強いと確信した。

 だが同時に、有為は懸念も口にした。
 自分達に対して、周囲は好き嫌いがはっきり分かれるかもしれない、と。
 高宮もそう思う。
 決して自分は聖人君子ではない。むしろ逆だ。
 有為は誰もが認める美人だが、そういう女は敵も多いかもしれない。

 そうだ。だからこそ瓜谷は強敵なのだ。
 高宮の脳裏に、鼻歌交じりの上級生の姿が浮かんだ。
 
 華のある男。
 飄々として学園の誰からも愛され、行動力も伴う男。
 
 高宮は昨年組んだ金田実優から聞いたことがある。
 自分達が入学したときの入学式は、重々しかったが退屈だったと。
 それを変えたのが当時一年生の瓜谷だった。まだ瓜谷がナンバーワンの連に選ばれる前の話である。
 学園と掛け合い、上級生と話し合い、翌年の入学式を祭りへと見事に変えてみせた。
 
 後から聞くには、卒業生や父兄にも根回しを済ませていたらしい。それでいて式当日は、何食わぬ顔で澄ましていたという。

 金田は決して軽薄な女ではない。損得の計算ができる女だ。その金田ですら瓜谷について語るときは常に言葉が熱を帯びていた。

 だが、高宮にも覚悟がある。
 今年は負けられない。

 高宮は予鈴を耳にすると、無意識に親指で唇を弾いて立ち上がった。


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