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一つ賭けをしない? (金木犀17)

2008年12月22日 22:31

 徹は待ち合わせのデパートの入口で混乱していた。
 なんで、今度は姉妹揃って来るんだ。
 一人でも人目を引く容姿だけに、姉妹揃うとちょっとした事件である。道行く人が振り返る――そんな表現がぴったりくるが、今日はそれだけでなかった。
 明らかに緊張感がある。しかも普段は大人の有理の方が取り付く島も無い。
 
 有理の肩口で切り揃えたストレートの黒髪と、有為の外巻きにカールした栗色の髪が、人込みを掻き分けるように徹の前に歩いてきた。
「お、おはよう……」
 恐る恐る徹が挨拶すると姉妹揃って返事を返してきたが、お互い目を合わせていない。
 
 徹は有理に小声で尋ねた。
「なんで有為ちゃんも来てるの?」
 有理は、徹の気のせいだろうか、冷やかな口調で答えた。
「本人が来たいって。でも、その方が徹君も嬉しいんじゃないかな」
 有為が妙にはしゃいだ声で徹に話しかける。
「夏休みは楽しかったね」
 徹は状況がわかって愕然とした。
「いや、だってあれは……」
「行こうか」
 徹の言葉など聞かず有理がエスカレーターへと背を向ける。慌てて徹が後を追い、その後ろを有為が続いた。

(まいったな。これじゃあ作品どころじゃ――)

 だが楠ノ瀬麻紀の作品は、そんな徹の懸念を完全に拭い去るものであった。
 愛の夢と題された作品は、ウェディングケーキをベースに、柔らかな色彩のリボンが天使と絡み合い空へと伸びている。銀の欠片が星のように散っている。
「これ、全部お砂糖なんて信じられない……」
 楠ノ瀬の作品は金賞だった。
 作品を見ていると、砂糖細工の天使の上から差す暖かな陽光が感じられた。
 ここに佇んでいると天上の音楽が聞こえてくる――言葉に出すと照れ臭いが、徹はそんな錯覚さえ覚えた。

「何か普段とイメージ違うでしょ」
 三人の後ろに、悪戯を見つかった子供のような顔で楠ノ瀬が立っていた。有為が首を振りながら感激した声を出す。
「素敵。タイトルもロマンティック」
 有理も先ほどの冷やかな表情の欠片も無く、熱のこもった相槌を打つ。楠ノ瀬は混ぜっ返すように手を振った。
「タイトルは好きなピアノ曲からの借り物なの。まあ、でも、この作品はうまく出来たと思うけど」
「楠ノ瀬の作品が最高だよ。びっくりした」
 徹は思った通りを口に出した。

 その後、二言三言話して楠ノ瀬は受付席へ戻り、三人は階下の喫茶店でケーキを食べることにした。
 楠ノ瀬の作品を見てから、ぎこちなかった雰囲気が嘘のように溶けていた。有理と有為はお互いのちょっとした秘密を話しては、徹の目の前で屈託無く笑い合っている。徹自身、体育祭以降のどこか鬱々とした気持ちが静かに晴れていくのを感じた。
 徹は楠ノ瀬に感謝しながら、笑い合う姉妹の姿を眺めていた。

 デパートを出ると有為は、用事があるといって一人早足で去っていった。
 残された徹が有理にどうプールの言い訳をしようか迷っていると、有理が左頬に笑窪を作った。
「徹君、相変わらず思ってることが顔に出るよね」
「へ?」
「夏休みの話は聞かない。きっと有為が誘ったんでしょ」
 徹はぼさぼさの頭を掻いた。

「あの子、きっと徹君のことが気になるんだよ」
 有理は手を後ろに組んだまま、徹の返事を待たず駅への道を歩き出す。徹も慌てて後を追う。
 目の前の横断歩道がタイミングよく青になり、人々が渡り始める。
「一つ賭けをしない?」
 横断歩道の前で不意に有理が足を止めて話しかけてきた。
 私達も秘密を共有しよう――そんな口振りだった。

「賭け?」
 徹が有理の台詞を繰り返す。
「そう、どちらかがナンバーワンの連になったら、一つだけ相手の願い事を聞く」
 徹は胸の鼓動が早くなった。また表情に出てしまっているだろうか。
 横断歩道の信号が点滅する。
「どう?」
 有理が覗き込むようにして尋ねる。艶やかな黒髪が肩から流れ落ちる。
 答えなど、聞く前から判っているはずなのに。

「……いいよ、受ける」
 徹の返事に有理は満足げに頷くと、髪を翻して走っていった。
 チェック柄のスカートから綺麗な脚が覗く。有理が渡りきる間に信号が赤に変わる。
 横断歩道の向こう側から有理が、一度だけ手を振った。


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